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品川甚句の歌詞

品川甚句という曲があります
品川甚句と検索すると2種類あるようですが、盆踊りっぽいやつじゃないほうです

幕末に品川宿で生まれた俗曲で、歌芸のような楽しい曲です

「品川甚句」
あゝ だましゃがる
小窓あくれば 品川沖よ
鴨八百羽 小鴨が八百羽 
入船八百艘 荷船が八百艘
帆柱八百本 あるよ あるよ
朝来て昼来て晩に来て
来てこんとは いつわりな
来た証拠にゃ 目が一寸だれちょる
酒飲んだ 誰よと誰とが
違ちょる ハッハッ違ちょる違ちょる
切り株 土手しょって 恋 ちょろちょろね
船は出て行く煙は残る
残る煙が アイタタタタ
しゃくのたね


この曲の歌詞の意味は不明とされていますが
気になって仕方が無いので歌の意味を謎解きしてみようと思いました

落語にもあるように、品川宿の船宿からは、遠くは安房、上総まで見渡せるほどだったといいます
春の潮干狩り・御殿山の桜・東海寺の牡丹・海晏寺の紅葉など、
江戸からも日帰りできる距離なので、行楽地として大変賑わいました
また、北の吉原・南の品川と並び称されるほど、遊郭や岡場所が多かったところでもあります

歌川広重

歌川広重 東海道五拾三次 品川 日之出

端唄や俗曲の多くは、あちこちのお座敷で歌い継がれながら、
語呂合わせや韻踏み、囃子ことば、即興など自由に組み合わされていったのでしょう
歌詞自体には深い意味はないとされるものが多いです
歌でからかったり、ちょっかいを出したり、はにかんだり、誘い文句だったり・・・
世の中や出来事を揶揄したり、風刺したりしながら楽しんだのでしょう

幕末の品川は、討幕派の長州藩士たちも多く逗留していました
浪人や外国人も多く流入し、打ち壊しなど治安も悪化したといいます
歌詞の(〜ちょる)は長州の言葉を真似て使っているものと思われます
偉そうに振る舞う長州の男たちを揶揄していたのかも知れません

この歌の歌詞で謎なのは

切り株 土手しょって 恋 ちょろちょろね

というところです

しょって⇒背負って、のことだと思っていました

切り株、土手、背負って・・・
お台場の埋め立て人足の男たちのことを言っているのか?
土手を、切り株、背負って、こい(来い)という順番なら分かりやすいのですが
恋、ちょろちょろね⇒ 人足男とちょろりと恋でもしたのか? 
うーん、何か変・・・そこで、もしかしたら、

しょって(背負って)ではなく しょて⇒初手

と言っているのではないかと気づきました
いろいろ調べていくうちに辞典では下記のようにありました
初手にはいくつか意味があり、
・遊女がある客をはじめて相手とすること。初会(しょかい)。また、広く男女の最初の交渉。
という意味もあるそうです

すると、

初手 恋⇒初めての客とのやりとりで惚れてしまった

という意味に繋がってきます

また、恋、は来い、とも取れると思いました
すると、

初手 来い ⇒初めての客が来て欲しい
      ⇒あなた(惚れた相手)との初回(最初の交渉)が来て欲しい
などとなります

ちょろちょろ、とは
・水が細々と流れるようなさま(水がちょろちょろ漏れている、など)
・火が弱く燃えているさま(残り火がちょろちょろ燃えている、など)
・軽い気持で事を行なうさまを表わす語。簡単に。思わず。間に合わせに。
とありました
何となく全部の意味合いが通ってきます
果たして・・・
俗曲の多くは男女の色恋のことを歌ったもので、多くは芸者や遊女のつぶやきです

初手 恋 ちょろちょろね ⇒初手で恋をしてしまって、しっぽりちょろちょろ
             ⇒初手で恋をしてしまって、恋の炎の残り火がちょろちょろ
             ⇒初手で恋をしたとしても それは軽い気持ちの間に合わせ
初手 来い ちょろちょろね ⇒新しい客が来て欲しい きっと客足は細々ね
             ⇒新しい客が来て欲しい 軽い気持ちでこなすわ
             ⇒新しい客が来て欲しい でもその客は(あなたがいない間の)間に合わせ

などといろいろな意味に取れます

それにしても切り株と土手って何でしょう?
調べていくうちに妖しい意味を発見

土手(どて)=女性を表す隠語だと分かりました
大辞林には
『女性の恥骨結合の前方、すなわち陰部の上方の皮下脂肪に富んでふくらみのある部分。恥丘。』
とありました
だとすると、土手が女性を表す言葉なら、もしや切り株とは・・・(O_O)

今稽古中の『ひえつき節』の内容は、平家の悲恋物語になっていますが、
その昔は、稗をつく杵と臼を男女に見立てた淫猥なものであったと聞きます
後世になって歌に題名を付け、しかるべき歌手に歌わせ、
世の中に発表し、レコードにしたりするのに
あまりいかがわしい歌詞では問題があるので、
あるタイミングで全然違う歌詞に書き換えられて発表されることもあったようです

もしかしたら「切り株、土手」もそんな表現の名残では?と推察することが出来ます

そのほかにも、シーンの手がかりになるような同音異義語が見つかりました

ドテ=人力車夫仲間の隠語で10銭(拾銭)のこと
キリ=クルス(ポルトガル人)
かぶ=かぶり=かぶりもの

とにかくはっきりした証拠は何もありません
これらの解釈は全て自己流です
全て自己解釈で以下のような訳を考えてみました

「品川甚句」
(あなたは)いつも私を騙してばかりね
この宿の小窓を開ければ遠くは品川の沖が見える
鴨も八百羽、小鴨も八百羽、
入り江に入ってくる船は八百艘、荷船も八百艘、
帆柱は八百本はある ここはたいそうにぎやかなところ
あなたは(この宿場町へ)朝となく昼となく晩となく、ちょくちょく立ち寄るくせに
いつも他の女(娼妓)のところへ来ているでしょ
来たのに来ないと言うのは偽りだわ
来た証拠に(他の女といい思いをして)目がだらしなく垂れている
酒を飲んだからですって?
酒を飲む相手が違うでしょ(本来は私でしょ)?
違うでしょ 違うでしょ

男と女 初めての一夜 思わぬ恋心が残り火のようにちょろちょろくすぶる

あなたを乗せた船は入り江を出て行った あなたの煙管の煙が部屋に漂い残る
残されたのが煙だけなんて ああ(心が)痛い
癪に障るったらありゃしない(私の心痛の種はあなたに他ならない)

※蒸気船は去っても、船の煙と戦火の煙は残っている
 この国にいろいろ影響を及ぼして ああ大変
 この町も、私らの商売もこの先どうなるのか考えたら、全く不安の種よ


※は、時代背景からもうひとつの歌詞を想像してみました
 世の中に対するこんな気持ちも込められているのではないでしょうか

この歌には二番(?)続きがあるようです

女流芸人・三味線漫談の立花家橘之助(たちばなや きつのすけ)
(元・三遊亭小円歌)さんが歌っている品川甚句では、上記の歌に続き、

義理と世間は 人目を忍ぶ
男名前で出す手紙
もし 車屋はん
お前はん見込んで頼みがございます
この手紙
内緒で持って行って 内緒で返事が 内緒で来るように
願えへんかいな
もし 車屋はん


義理と世間の目を忍んで
男の名前であの人に手紙を出すことにします
もし 車屋(人力車の車夫)さん
あなたを見込んでお願いがあります
この手紙を内緒であの人に渡して 内緒で返事をもらって来てくれませんか
そのように取り計らっていただくわけにはまいりませんか
どうかお願いします 車屋さん


柳並木にガス灯、石畳、人力車・・・
そんな幕末の品川の風景が浮かびます・・・

いずれにしても、歌はとても早口で、曲も難しい曲です
それでも、いつか弾けるようになりたいものです



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